(宇宙連邦軍のお偉方が出てきた後では、礼を失する懸念がある)
脇で、サリトも、
「本当ですわ。本当に、なんてお礼を申し上げたらよいかわかりませんわ」
と言いながら、サリトの眼に涙が浮かんだ。
「いいえ、任務ですから」
すぐに、ミランがサリトに向かって言った。
「ええ、お二人を無事にテラにお迎えできて、我々としても非常に嬉しいです」
ネドはちょっと硬めに、ヤデンとサリトに軍人らしい態度でこう、応えた。
そして、握手を求めたヤデンと握手を交わしたのだった。
格納庫を出ると、テラのキャプテン、ファウル大佐とバラン副長が部下を数人連れて迎えに来ていた。
キャプテン、ファウルはヤデンとサリトに、にこやかに自己紹介をし、副長を紹介し、僕ら二人には、ごくろう、と声をかけてさがらせた。そして、自ら客をゲストルームに案内して行ったのだった。
ネドはミランと別れて自室に戻り、そのまますぐに横になったのだが、頭が冴えて眠ることができなかった。納得がいかなかった。
僕ら二人は死ぬところだったのだ。
ケネス宇宙軍が全面的に助けてくれたから、生きて帰って来れたのである。
ごくろうの一言で下らされて、ケネス星人である僕の気持ちは高ぶって、なかなか、静まってくれなかった。
僕たち二人は、今年の宇宙連邦軍の、何番目の死者になっていたのだろう。
改めて、ケネス星との考え方の違いに、驚かされる。
ケネスでは、ケネスの教育プログラムでは、人の命は平等に重く、その重さに違いはない、と教えられている。
ここの、いや、ケネス星以外は全て、その人間の立場によって、命の重さに差があるように思われる。
それが、当たり前のように考えられている。
立場が上の人物の死は、大変なことと捉えられ、それを防ぐことが重要事項として扱われ、そうでない人間の死は、亡くなったことがそのまま受け入れられるだけである。
この考え方の差が、宇宙連邦軍の年間の死傷者数が減らない大きな理由の一つであるとネドには思われた。
どの人間も一度しか無い大切な人生を歩んでいるのは同じなのに。
ネドは深くため息をついた。
僕がケネス宇宙軍に守られているのは、守らなければならない人間が、僕だけになってしまった、ケネスの事情があるからである。でももし、そうでなくても、ケネスであれば、互いに手助けしあって、死傷者を出さないように、注意しあっていただろう。平等に。
そして、今回の事を振り返るネドの脳裏にこの事がよぎった。僕がこの宇宙連邦軍に勤務していることで、ケネス宇宙軍に、いや、ケネス星に多大な負担と出費を強いている。ネドの心は沈むのだった。