「了解しました」
「艦の速度を上げてくれ」
「了解」
ミッドのコントロールルームの士官が応えた。
サライは、はっとして、
「すまない、シュメル」
と、このミッドのキャプテン、シュメルに詫びた。
「いえいえ、最高司令官、どうぞ」
と返すシュメルに
「嫌な予感がするんだ」
脇の補助席でサライはこう呟いた。
ネドの具合がひどく悪くても、彼が自室に居てくれない限りはあからさまに転送でこちらに来させるわけにはいかない。Qコードの自動化はほど遠いな。ああ、ネド。
ケネス艦ミッドのキャプテン、シュメルは、正面スクリーンの地図を見ていたが、やがて、
「最高司令官。ハボス艦の速度が、速いですね。かなり上げていますね」
と声を上げた。
そこへコントロールルームの士官の緊張した声が響いた。
「ハボス艦の正確な進路が出ました。表示します」
コントロールルームの士官たちが、一斉に正面スクリーンを見た。そして空気が凍った。
正面スクリーンに浮かび上がった船の進路を示す白い直線は、この船ミッドと宇宙連邦軍宇宙艦テラとの直線上、ミッドの進行方向前方40万Kmで交差していた。つまりこのミッドに向かって来ている。
(ハボスのセンサーでは、これだけ離れていると、このミッドの位置をそのまま彼らのセンサーでは捉えることができない。科学技術の差である。ケネス星の代表者を乗せたケネス艦が早い時間にケネスを発ったことは、ハボス星人が、民間と軍を合わせると、かなりな数ケネス星に来ている為、情報がハボス側に流れているだろう。その僕らミッドの出発時刻と、テラまでの直線方向と、通常の大型宇宙艦の公的速度で計算した位置を目指して来ているのだ。
宇宙域は広いため、どの星のセンサーにもどの宇宙艦、宇宙ステーションのセンサーにもかからない宇宙域が多く存在する。いままで出没している海賊船は、すべてハボスだと、ケネス側はわかっていた。ハボスは軍の船で略奪をしている星だ。しかし、これはなんだ。星の代表者たちを乗せた船を襲ってくるつもりか)
同じ画面をケネス宇宙軍本部の正面スクリーンで見ていた、ラムル総統から通信が入った。
「サライ最高司令官。手伝うことはあるかな」
落ち着いた声が非常通信を伝って響いた。
「ありがとうございます、ラムル総統。今はまだ、大丈夫です」
サライは落ち着きを取り戻して応えた。
さて応援船を別に呼ぶか、テラの周りにいるケネス艦をこちらに呼ぶか。
サライはテラの周りに停泊させていたギガ以外のケネス艦2隻を、このミッドに向けて速度を上げて向かわせた。
その2隻はハボス側のセンサー域に入る前に船の侵入角度を変えた。航行してきた経路が不自然に見えないようにするためである。そして透明スクリーンを切って、減速してからセンサーに入りミッドに向かった。