ネドは昨日から飲み物を極力控えていた。
私的なことで、今回の訪問で周りを煩わせたくはなかったのである。
唾を溜めて飲んでみようとしたが、唾さえ口に溜まってこない。
ギガのコントロールルームにいるドクター、マシアスは、ネドの状態を医療モニターで見ていた。転送収容の機会をうかがっていたのだが。
ネドはついに、ケネスの上陸メンバー全員に張られているシールドBを、シールドAに下げるように左前腕のケネスのコンピューター端末に小声で命じた。
そして、すぐに飲み物をここに転送するようにと命じた。
シールドが下がり、一気にミュールの外気がネドの周りに入ってきた。変なにおいがする。ネドは目の前に転送されてきたケネスの飲み物を手にした。
それに気が付いた他3人は、立ち上がってネドの姿をカメラから遮り、そのうちの一人のSEは同時に左前腕を触って、留置所のカメラの前にあらかじめ仕掛けておいたケネスの器械に命じて、にせの映像を流させた。
そして瞬時に全員が左前腕を触って、
「ネドにQ」自身にも「Q」「Q」「Q」「Q」
と同時に命じた。
留置所内の4人の周りはキラキラと光に包まれた。
その時、この留置所の外に、にわかに音がした。ダダダダダ
ここの軍医がついに兵士を引き連れて部屋の外に到着したところであった。
緊急避難コードQを発した場合、ケネス星人は、その地点から近い、そして一番安全だとコンピューターが判断したケネス宇宙軍の施設内、あるいは宇宙艦内に転送される。
このQコードは、緊急事態に用いられるもので、科学技術の守秘義務よりも唯一優先される。
4人が転送されたところは、ミュール星の近くのケネスの宇宙基地(第107宇宙基地)のゲストルームであった。
敵艦に囲まれたケネス艦ギガは安全対象から外れたのだ。
さてギガの方はどうなっていたのだろう。
ミュール星の周回軌道上のギガの周りは、変わらずミュール側の宇宙船3隻が取り囲んでいたが、今は砲撃もやんでいた。
ミュール軍側は、変わらず、キャプテン、キースの拷問シーンを衛星通信でギガに送り付けていた。
「早く、命じろ!」
キャプテンはどうするつもりだろう。
この星の代表者モルはどうしたのだろう。この事態を知っているのか。
副長シリスは困惑していた。
そこへ、左脇の士官から、声が上がった。
「副長、Qコードです。4人です。キャプテン以外の留置所の4人が転送されました」