そしてネドは大きな展示模型に目をやった。僕がいた移民船の模型だ。保育器があった場所に印が付けられている。そして、ネドは目線を下に向け、保育器に近寄った。僕が入っていた保育器だ。
中に大きなタオルが入っている。ネドは薄いパステルカラーの花の柄のバスタオルを見つめた。
母の好みのタオルだったのだろう。
やっぱりだ。胸が熱くなって、のどが痛くなって、目から涙があふれでた。いつも、いつ来ても、必ずそうなる。
母は、若い母は僕を抱いて何を思っていたのだろう。父は最後の時、何を考えたのだろう。
ノードが近寄ってきた。
「大丈夫ですか」
ノードの優しい声を聞いて、僕は顔を上げた。
「ああ、ノード。今度は神殿へ行くよ」
と僕はノードに言った。
ネドは、自分がこれから生きていくことを考えたかった。将来を考えたかった。考えをまとめたかった。
高速平面移動ボックスから降りて、花の咲いた庭園を抜けて、白い厳かな建物に入った。
HR(人間型ロボット)が出てきた。
「いらっしゃいませ。あいにくおじいさまは、今日はこちらにいらっしゃいませんが」
申し訳なさそうな顔を向けたHRに、ネドは、
「いいんだ。今日は、神殿の中に入りたいんだ。奥の間に入りたいんだ」
と告げた。
HRは驚いたように目を上に向けた。やがて視線をネドに戻すと、
「失礼。もうすぐ許可がでると思います。お待ちください」
と言ってちょっと固まっていたが、返事が来たのか、相好を崩して笑みを浮かべた。
「許可が取れました。ご案内しましょう」
ネドと後ろにいるノードに目線を向けてから、先に歩き出した。
こつこつと足音を響かせながら、大きな祈りの間へ入り、そして更に左奥へ向かった。
重厚な扉がしっかりと閉まり、何人も寄せ付けない雰囲気を醸し出している。
ネドがここへ入るのは、これで4度目である。
「私は、ここでお待ちしています」
ノードが後ろから声をかけた。
「ありがとう、ノード」
ネドは振り返ってノードにそう言って、
シュッ
扉を開けてくれたHRに軽く会釈をして、一人で奥の間へ入った。
後ろの扉がシュッ、閉まった途端、大きな部屋の右奥から巨大な怪物が現れた。
巨大な影を曳きずりながら近寄ってくる。