上陸メンバーのSEの仕事がそろそろ終わったころだ。ここの留置所になんとか転送で戻ってから、Qコードで全員引き上げよう。縛られたイスの背にキースの左前腕はいつでも押し付けることができた。
キースが、左前腕に小声で命じようと思った瞬間、イスに縛られたキースの頭に銃が向けられた。
まさにその時、
バン
この部屋の壁の時計が、いきなり落ちて床に当たり、大きな音を立てた。
一斉に、この部屋の中のミュール星人達の目が、音のした方向に向けられた。
この瞬間、キャプテン、キースの周りがキラキラと光り、キースは第107宇宙基地にケネス宇宙軍本部の転送機で、瞬時に転送されたのであった。
サライ最高司令官の指示で、本部のSEが、この部屋の天井付近に透明スクリーンをかけて飛ばしていたケネスの器械を、壁にかかっている時計にぶつけたのだった。
まさにその直後、この部屋の扉が開いた。そして、血相を変えたこの基地の医師と軍人数人が、留置所の宇宙人が逃げたと叫び声をあげたのだった。
小型船を収容したケネス宇宙艦ギガは、ミュールの周回軌道を離脱し、方向転換して、低速で109基地へ向けて航行を開始しようとしていた。
そこへ、
「副長、ミュールの地上で転送装置作動です。キャプテンです」
「わかった」
「速度はそのまま維持。急ぐな」
ギガの防御スクリーンにミュールの砲撃が当たって、火花が上がっている。衛星アトス脇を抜けるときには、アトスからも砲撃が開始された。ギガはすさまじい砲撃をあびることとなった。
バン バン バン バン バン バン バン
それも止んだ時、そこへ、オンにしている通信機から、ミュール軍の歓声が、ギガのコントロールルームに響き渡った。
ウオー ウオー ウオー
敵を追い払ったミュール軍の勝利の雄叫びである。
これで勝利したことになるのか。
うずまく勝利の声に、副長シリスはピクリと眉を上げた。
さて、その時ネドはどうしていたのだろう。
ミュール星の外気に触れた為、ひどい咳と高熱を発する状態となっていた。
しかし、ネドはベッドに入ることは拒否し、ベッドによりかかって、ベッド脇に足を投げ出して座っていた。
ネドの脇で、ドクター、マシアスは医療機器を操作して、ネドの治療に当たっていた。
ネドと共にこの宇宙基地に収容されたSE二人は、ソファに座って、半透明の小型パソコンを出して、チラチラとネドの方を見ながら、手伝いが必要な時は手助けができるようにしつつ、二人別々にパソコンを操作して報告書を書き始めていた。
ケネスでは、報告書を書き終わるまでは、話をしないことが鉄則となっている。
商務省副長官ルコも少し離れたところで、やはり小型パソコンを転送させて、報告書の入力をし始めていた。