しかし、やがて、その科学者の心の中に、謎を解明したいという欲求が生まれた。この欲求が恐怖に打ち勝ったのである。
数日後、他の仲間の科学者に声をかけ、二人で武器をもって自分の研究所へ戻った。
その動物の塊は、まだ実験室の中にいた。動いていた。だが、再生されたときのように、うすぼんやりとした塊ではなく、ある程度、肉体があったときに近く見えるのだ。
その動物の塊は、なんと、鍵が掛かっていなかった檻の中で、自分の餌を食べていたのである。食べたものを消化しているようだ。
よくよく観察してみると、その動物の塊はもやのようになったり、肉体があるときのように見えるようになったりを繰り返していた。
試しに、その塊の体をはたいてみると、その時は、はっとしたように肉体があったときのように実体化する。
転送技術の実験と並行して、この奇妙な実験の研究もなされていった。
移住したケネス星人の死亡率は高くなり、また出生率は極端に低くなっていった。
ケネス星人は、ケネス星人そのものの存続の危機を感じた。
行方不明となった移民船は、捜索範囲を可能な限り広げて行われていったが、それでも見つけることはできなかった。そして10年が経った。
この奇妙な実験結果でもたらされた動物の塊は、不老不死のように、通常なら10年という短い生涯を終えるはずの動物が、全く老化する気配を見せなかったのである。
ある時、遂に科学者自身が実験の被験者になった。
仲間の研究者に頼み込んで行われた実験で、この科学者は肉体を失った。しかし、薄ぼんやりとした塊となった科学者は、仲間の研究者と話をし、そして、自分の手を見ながら、自分の意志の力で実体化することができるようだと、実体化して見せたのである。
この実験結果は公表された。その頃はすでに、教育プログラムが全ケネス星人に浸透していて、人を咎めて留置所に送り、刑務所で暮らさせるという考え自体がケネス星に存在していなかった為、そのまま公開されたのである。
遂に出生率がゼロとなり、その前に生まれた幼い星人も亡くなっていった。
そんな時、ある夫婦とその息子が、自分たちを機械にかけてくれと研究所に訪ねてきた。
この夫婦とその息子も、他のケネス星人と同じく、身体が弱ってきており、この家族の誰もが、ひとり残されることに恐怖を感じていたのである。
そして、更に話を聞くと、この夫婦には娘がおり、行方不明になった移民船に娘夫婦と孫が乗っていた。その安否がわからないうちに、他の家族が死んでしまうのが耐えられないというのである。
仲間の科学者があらかた話を聞いた後、あの被験者第1号の科学者が登場し、この家族と直に話をした結果、遂にこの夫婦とその息子は、機械にかかり、肉体を持たないケネス星人となったのであった。