コツコツ靴音を響かせて、奥へ入っていくと、この神殿の執事のHR(人間型ロボット)が迎えに出てきた。
ネドが一人で祖父の部屋へ入っていくと、ラムルは机で仕事をしていたようだったが、嬉しそうに立ち上がって、ネドにソファを勧めた。
ネドはそれを断って、立ったまま、
「この度はご心配、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
と頭を下げた。
「謝らなくてもいいよ。でも、ネド、まずは座ってくれないか」
「いえ、立ったままで結構です」
「ああ、そうか、そうなのか。・・なるほどね。では、宇宙連邦軍式にしようか。総統の私がそうしてほしいと言っているんだ」
「わかりました」
ソファに座ったネドの向かいにラムルは座ると、ちょっと間を置いてから、話し出した。
「これはいい機会だから話した方がいいだろう。君は、宇宙連邦軍に入って、この星ケネスとの違いに驚いてきたと思う。戸惑っただろう?」
「はい、驚くことばかりでした」
「まず、今のように、例えば君の宇宙連邦軍の中なら、少尉である君は、キャプテンの前では、常に立ったままだろう」
「その通りです」
「でも、ケネスは違う」
「はい」
「僕らケネス星人は、生きている星人同士は対等であるという考えに立っているからだ。これは、僕らが命令と言う言葉を使わないこととも通じている」
「ええ。僕らは指示ですね」
「そうだ。指示と賛同だ。誰も命令はできない。でも、一方で、僕らは、全ての星人を同じ立場とすることは、社会を運営する上でできないこともわかっていた。つまり、社会を作って人々がその中で暮らしていくには、どうしてもピラミット型の社会、組織を作らざるおえない。でなければ社会そのものが成り立たない。そして、全ての星人がピラミッドの頂点にいることはできない。命令されるのは誰もが嫌であるにもかかわらず、だ。だが、上からの指示に下が賛同する社会なら、作ることは可能だ。賛同するのと命令に従うのとは意味が全く違う」
「・・・」
「いい機会だから、よく聞いてほしい。僕らは、僕らの祖先は、いやというほど争いの歴史を持ってきた。大きい戦争も小さい争いも、いやと言うほど経験してきた。その中で、ようやく僕らの祖先は、人間の持つ傾向、犯しがちなことに気が付いたんだ。もし、僕が他星のように、僕が許可しないと僕の前で座れないという決まりをつくったとしよう。僕は王であ り、総統なのだからね。でも、この考え方を認めてしまったら、これだけでは済まなくなる。いや、済まなくなる可能性がある。