なかなか無い任務だろう?さて、すでにこのテラはベーター星に向かっている。到着は2週間後の予定だ。何か質問は?・・無いようだな。では、以上だ。よく考えてから、応募してくれ。解散!」
一斉に士官たちが席を立った。と同時に、がやがや声が大きくなる。まさにめったに無い任務である。ベーター星といえば、まだ飛行機すら、いや汽車すら造られていない星だ。ネドにとっても心躍る任務である。
その夜、ネドは左前腕に隠されたケネスの器械を使って、転送でケネス星へ戻った。ネドはこの間2年ぶりにケネスへ帰還して以来、時々ケネスへ転送で帰っていた。自分を休めるために時々帰還したほうが良い、とのスプームの助言に従ったのである。
ケネス宇宙軍本部の転送室へ実体化して、係員のHR(人間型ロボット)に片手をあげて転送室を出ると、自動扉の脇に、執事のノードが笑顔で立っていた。
「ノード」
「お帰りなさいませ」
「ああ」
「おじいさまのところへ行かれますか?」
「いや、星立図書館へ行く」
「パラスですね」
ネドは片眉をあげた。ケネスの情報収集はどこよりも早く、かつ正確である。ネドはこの図書館の立体ホログラムシュミレーションを使って、ベーター星のパラスの言語の会話の練習をするつもりでいた。商業の星ケネスでは、星人は多言語に通じている。ベーター星のパラス近くの市場に実際に出入りしているケネス星人もいる。ベーター星の言語をネドが話せてもなんの不思議もない。ネドは語学力でアピールしようと思っていた。
ネドは長時間、このシュミレーションルームに籠った。
数日後、人選が発表になった。選ばれたのは、地球人の少尉と僕、ネドであった。
やった!
宇宙連邦から派遣予定だった通訳者の件は中止となり、ネドが通訳をすることとなった。ネドの狙いは功を奏したのだった。
当日となった。上陸班は副長、地球人の中尉一人と僕ら少尉2名を加えた四人である。上陸班は入念にベーター星人になりすます準備をした。
ベーター星人は典型的な地球人型生命体である。皮膚は茶色い。ネドは用意された茶色いクリームを身体中に塗り付けた。眼にレンズを入れて、用意された粗末な布の衣服をまとった。鏡を見ると実に奇妙だ。ネドはすぐに目を逸らした。