ここまで言うと、キャプテン、キースは改めて、優しい眼をネドに向けた。
「考えてみてくれないか、ネド」
第5章(組織とは)
ネドは地球での休暇の後、 惑星や衛星の調査という通常業務を日夜こなしていたが、その間、月日はどんどん経って行った。業務に、もはや戸惑うことは無くなった。もう4年である。
ネドは中尉となっていた。英雄視された事件があったからか、地球人以外の他星人では、めったにない速さの昇進である。
朝、いつものように、日課となっている、船内メールを見ていると、宇宙アカデミーで同窓だった地球人の訃報が入っていた。
友人があまりできない性格の自分なので、当然、彼とは親しくはなかったが、それでも、その事実、同期の死、はネドには衝撃であった。
なぜ?
よく読んでみると、配属先の宇宙連邦軍宇宙艦オシリスで、ある衛星の調査中の事故となっていた。
ネドはため息をついた。
わがケネスであったら、防げた事故ではなかったかとネド(僕)はこの頃、事故の報告を聞くたびに、よく思うようになっていた。
現場で働く機会が増えてくると、危険だなと僕自身が思う事がある。
ケネスだったら、立場がどういう士官でも関係なく、意見が言える。いや、意見が言えるというよりも、ケネスでは、ケガをしたり、死んだりする危険があるのなら、その当事者が行動を中止したり、変更する権限を持っているのだ。
しかし、宇宙連邦軍では、違う。現場の下の人間が、行動の中止や変更の権限を持ってはいない。そして、上官に意見を言うことは、それ自体が、すでにこの組織の中では危険である。組織の中で生きて行くのが難しくなる危険を持っている。
現場では、危ないと思われていても、改善されずに、そのまま事故死するケースがあるのではないかと、ネドは苦々しく思っていた。
この組織、宇宙連邦軍では、死傷者の数は減っていってはいない。
ネドは、うつうつとした気持ちで、いつものように食堂へ行き、コントロールルームへ上がった。すると、バラン副長から、キャプテンの所へ出頭するようにと命じられた。
いつもより、バラン副長が、疲れて見えたのが、気にかかる。
何事だろうと船長の執務室へ行ってみるともう、親友のミランがキャプテンの前に立って、何やら話を聞いているところであった。
「ネド中尉、出頭しました」
「ごくろう、中尉。今、ミラン少尉には今回の任務について話していたところだ」
緊張した顔のミランがチラと僕を見た。