5分程経っただろうか。いつものようにサライ最高司令官の隣に補助イスを出して腰掛けていたラムル総統が、静かに席を立った。
チラと総統を見送ったサライ最高司令官は、自分も立ち上がって、落ちた声で、
「ネドを探し続けてくれ、僕は執務室にいる」
と、周りの本部の士官に指示を出し、ケネス宇宙軍本部を後にしたのだった。
サライは普通に歩こうとした。だが、力が入らない。
司令官なのだから、人には動揺した姿を見せたことは無い。それがどうだ。
停止してしまった思考に叱咤をして、顔だけは上げて廊下を歩き、そして自分の執務室に入り、正面に座っている秘書に右手を無言で上げて合図をし、そのまま右脇の自分の部屋へ入った。
ゆっくりとイスに腰掛ける。書斎机に両肘をのせて、うなだれて下げた額を両手で支える。
打つ手がないのである。
タイムマシンに入ってしまった。誰ともわからない人物の作ったタイムマシンに。
この、今わかっている宇宙域のなかでは、わがケネス星が一番、科学技術の進んだ星なのである。
だが、この、わがケネスですら、タイムマシンはごく初期段階である。
数日先に向けて飛ばした機械を、数日後に、飛んできた事を確かめる。それが確実となったところであった。次は植物を飛ばす実験に入るという報告を最近、受けていた。
サライは書斎机に肘を載せ、そのまま座り続けていた。
5分、10分、15分。
ネドがサライに最後に見せた顔が浮かぶ。ネドが僕に言った言葉も。映像となって頭に浮かんでくる。
肝心なところでは、常に彼は僕に逆らってきた。僕が右と言えば、左をするようなことが、よくあった。
僕は、彼の父親のつもりでいた。彼の父親とは、僕は親友であった。死んだ親友の代わりに、僕は、ネドを厳しく、雄々しく育て、そして導くつもりであった。
サライは心に、深い深い穴が開いていくのを感じた。
沈んだサライの脳裏に、ケネスの教育プログラムのある一説が浮かんだ。昔のケネス星人の載せた一説である。
それは、試練、という言葉に対する、ある父親が載せた想いが綴られている部分であった。
この父親は、子供を厳しく育てた。それが、これから立ち向かう世の中に対して、免疫を作っておく良い機会だと思っていたのである。
だが、この父親の息子は自殺をしてしまったのである。
心が痛くて痛くて痛くて、息子が弱い人間だったのだと思い込もうとしたが、うまくいかない。