箱を開けた途端、ヴィードの強烈な甘い香りが鼻につく。
開けていくと箱の一つに、携帯酸素発生装置を鼻に押し付けた中年のネメス星人の男が、窮屈そうに足を折りたたんで、うずくまっていた。
ヤデンであろうその男は、ちょっとふらつきながら立ち上がると、箱を出て、大物然とした態度で、ネドとミランに手を差し伸べて、握手を求め、自己紹介をし、礼を言った。
そして、ヤデンは続けた。
「本当に、ありがとうございます。宇宙連邦軍の方々。感謝します。ところで、娘も連れてきているのですが」
そういうことか。
ヤデンと3人で、隣のカートの荷物を次々開けて行った。
やがて、携帯酸素発生装置を鼻に押し付け、足を折りたたんで箱の中にうずくまっていた、若きネメス星人の女性を見つけたのだった。
この星の美人の尺度はわからないが、すらりとした足でダンボールをまたいで出てきた姿は、まさにぞくりとする美しさであった。
目鼻立ちと言い、スタイルといい、実に美しい。
ヤデンが娘をネドとミランに紹介した。
サリトと言う名前のその娘のほほ笑む顔を見て、ネドもミランも顔を赤くした。
ミランはどぎまぎしながら、サリトをイスに座らせた。
ヤデンと3人で、開けたダンボールの片づけを始めたが、ここでミランのお腹がグーと鳴った。
おっと。
サリトはほほ笑んで、
「よろしければ、ヴィードを召し上がったら?とてもおいしいんですよ。宇宙連邦軍第9ステーションでもネメスのものが売られていますけど、他星人の方々にも評判はいいのですよ」
サリトは、ネドとミランにヴィートを勧めた。
「どれ、私は先にいただこう」
ヤデンはそばにあったヴィートを早速ガリリとそのまま噛んだ。
「うん、おいしい」
「この船には、何か飲み物を積んでいますか?」
サリトは立ち上がった。ミランがええ、と応えながらサリトを奥の非常用の飲み物の所へ案内した。
緊張続きであった任務だったが、ネド(僕)とミランは、つかの間、和やかな雰囲気に包まれた。
ネドは慣れない超能力使用で、疲労も限界に達していた。
とても食べ物を口にできる状態ではなかったので、食べることはできなかったが、この時ばかりは、少し元気が出た気がした。張り詰めた気持ちが緩む。
飲み物をちょっと口にしながら会話も弾みだした頃、この雰囲気を吹き飛ばすように、突然、小型船の通信機から、ネメス語が響い た。