「なるほど」
「力の差を見せつけます」
「なるほど」
「その方が相手の戦意をくじきますから。人質を解放するとミュールの方から願い出るように、通信で、おどしをかけますね」
「うーん」
「それに、人質も、僕ら宇宙連邦軍なら、脱出する方法を自ら何か考えますね。自分たちのせいで、自分達の宇宙艦が動けずにいるなら、何か考えます。例えその脱出の最中に、自分たちの誰かが負傷する、あるいは死ぬ危険があっても、それは仕方がない。何も行動を起こさないなんて、絶対に無いです」
「よーくわかった。君の考えが。君の不満の理由が。でも、僕らはその考え方は絶対に取らないね。あり得ない」
「・・・」
「いい機会だから、僕らケネス宇宙軍が何を大事に考えて行動しているか、話そう。僕らの行動で、死者もけが人も出すことは無い。双方にだ。死者やけが人を出す恐れがあれば、その行動は取らない。絶対にね。この考え方は、僕らが生きて行く上での根幹となっている。どんな状況でも、揺らぐことは無い。僕らは、他人の命も自分の命も大切に考えている。君の考えは違うかもしれないが、僕らは、自分の身を犠牲にすることを想定して行動はしない。英雄的行動を取るより、生きて帰ることを、誰しもが望んでいることを知っているからだ。僕らは、亡くなってしまった人を悼む気持ちで、英雄と讃えている。残された家族の深い悲しみを少しでも癒すために、英雄として讃えている」
ネドは黙って聞いていた。
「そして僕らは、相手に恐怖を与えることもしない、絶対にだ。君はある意味、あのミュール軍に似た考えを持っているようだ。勝ったか負けたかが評価の基準となる考え方だ。負ければ、恥という考え方だ。そう、宇宙連邦軍も同じだ。だが、僕らから言わせれば、それはどうでもよいことだ」
ネドはため息をついた。
「今回の事についていえば、SE諸君が、ミュール星の地上に、多数の通信機器を透明スクリーンで隠して撒いてきている。ある意味今回の件が読めなかったのは、ミュール星の外に出ている通信でしか情報を集めていなかったことが、根幹にあると僕は思っている。今後、この通信機器で、今まで以上にたくさんの情報を取ることができる。今回の訪問は無駄になったわけではない。我々はミュール星に対して好印象を残してきた。死者もけが人も出さなかったし、恐怖も与えてこなかったからね。宇宙に進出して、宇宙人と初めて接触する星では、今回のようなことは起きがちだ。今後の両星の関係を考えた時、今回は、布石としては、良い結果で終わったと僕は思っている。これは、ケネス宇宙軍のみならず、ケネス星全体でも、同じ評価だと僕は思っているけどね」