「ケネス星の皆さん、そして、ケネス宇宙軍の皆さん、ネドは大丈夫です。当分はケネス星で静養させますが、でも大丈夫です。さて、彼を傷つけたハボス星人を乗せたハボス艦は、今、自星に向かって帰還する途中にいます。それについて、私は皆さんに提案があります。これから、私が皆さんにお話することを、皆さんはどう、お考えになるでしょうか。私は、今、問いたいと思います。私はケネス星人であり、ケネス星人であることをずっと誇りに思ってきました。ケネス星人は決して人を傷つけません。人を咎めません。ケネス星人なのですから。人間が分かって、生き合っているのですから。これだけ精神の発達した星を私は他に知りません。類いまれなる星なのです。ですが、ですが、・・彼らをこのまま自星に帰してしまうことに、私の心が納得しないのです。どうしても。肉親を傷つけられることが、自分の心に、これほど強い怒りを招くものなのかということを、私は今、身をもって体験しているところです。ネドは、あの事故の唯一の生き残りとして、唯一の若い世代として、ケネス星で育ちました。ですから、ネドの成長を、常に映像で皆さんに配信してきました。皆さんはネドを、自分の子供のように、自分の孫のように、感じていらっしゃるのだと思います。ですから、私と同じ感情を皆さんも持っていらっしゃる。事実、私は、今、私と同じ煮えたぎる思いを、直に震えるほど大きく皆さんから感じとっています。それで、提案です。私は、ハボス艦を、あのハボス艦を、遠くへ転送で飛ばしたいと思っています。もちろん、どこかの宇宙ステーションにある程度の時間で着ける範囲の空間に、飛ばしたいと考えています。彼らは恐怖を感じるでしょう。おそらく、あのハボス船にあった機械が消えてしまったことと関連付けて、このケネス星の科学技術力に恐怖を感じるかもしれません。もちろん、我々は何も認めませんが。私は、このハボス船をどこかへ飛ばすという行為が、これがしてよい事なのかどうかは、わかりません。総統である私が言う言葉ではないのでしょうが、この対応に対しての責任は当然、私が持ちますが、この行為が良いかどうかの自信は今、私にはないのです。もし、皆さんが賛成してくださるのなら、この行為を行い、私が今語った言葉を付して、この行為を逐一記録として後世に残そうと思っています。さて、皆さん、いつもの集計のように、左前腕を触って、是非を私に教えてください。ケネス星の皆さん、お願いします」
総統は、一旦通信を切って切り替えた。
総統が、集計を配信するように、ケネス総務省の担当部局に通信を送った。
ミッドのコントロールルームの乗員が、みな、左前腕を触った。
サライの隣のシュメルも。
そして、サライも。
サライは、ほっとしていた。
すぐに集計が、正面スクリーンに浮き出た。
画面の中のラムル総統が、集計結果を確認してから、ゆっくりとカメラに顔を向けた。左前腕を触って、サライに呼びかけた。
「サライ最高司令官。集計結果が出た。最後の仕上げをお願いする。疲れているところを悪いが、頼む」
「ラムル総統。お安い御用ですよ」
サライはそう言うとパネルを触って、
「士官諸君、候補の空間の座標を誰か教えてくれないか?どこかハボス艦を、一隻でいい、飛ばせる候補を」
と、なぜか笑みを浮かべて声を上げたのだった。