その男の後ろに、荷物を載せた大きなカートがみえる。カートは2台だ。それぞれの荷物の脇に、ネメス人の手下風の、簡単な衣服を着た筋骨たくましい男が二人立っていた。
声をかけてきたネメス星人の男は、どうもわざと周りに聞こえるように話しているようだ。
「ああ、デゴンさん。朝早くすみません。これは、ケルサ地区のヴィードです。他星でなら、絶対高く売れますよ」
そこまで言うと、さっとその男は部屋の中に入り、戸を閉めた。
小声で、ネド達二人に、来訪の礼を言い、ネドに、紙を押し付けて握らせ、すぐに戸を開けた。手下に合図をし、ネド達が持ってきたカートを外に運び出させた。
「ありがとうございます。損な取引には絶対になりません。今年のケルサのヴィードは本当においしいですから」
と、またやや大きい声を出して、頭を下げてその男は礼を言い、さっと手下に自分達のカートを押させて、ネド達の部屋に荷物を運び入れさせた。そして、手下にネド達のカート2台を押させて、さっさと荷物用エレベーターに乗り込み、あっさりと姿を消した。
ネド達の部屋には、荷物が満載された大きいカートが2つ残された。
ヤデンが入った荷物だけを運ぶわけにはいかなかったのだろうが、この荷物は、これだけの量は何なんだ。それに、なんで2つなんだ!!
不安に駆られたネドは、カートを少し押してみた。
重い。
ミランも不安になったのか、カートを押してみている。
おいおい。まじか。
とにかく、出よう。荷物用シャトルの朝一番の便に乗ろう。
とてもじっとはしていられない。
ネメスの宇宙ステーションから出航するのは、すでに提出済みの計画書通りに行うしかないが、その時間までは、テラの小型船の中で待っていた方がいいだろう。
夜明けが待ちどうしかった。とても。ミランと二人、ベットに横になっても、とても眠ることはできない。
陽が昇るとともに、二人は身支度をし、部屋を出た。
ネドは、どうも胸騒ぎがする。
フロントで清算してホテルを出て、シャトルの地上基地に向かった。
ネドは、シャトル便は、変更払い戻しせずに、券売機で新たにチケットを購入して、朝一番の便に乗り込んだ。
ネメス星人と、よけいな接触はしたくない。
ネメス星の宇宙ステーションで荷物を押しながら、出星の検査場に向かった。
朝早い時刻のため、それほど混んではいない。
ネド達の検査になった。
例のネメス星人の商人風の男が、ネドに取引明細書を押し付けて行ったので、それを検査官に渡す。
荷物を開けさせられる。開けると、プーンとフルーツの甘い香りが漂う。箱の中には、赤い色の直径20㎝くらいの球形のボールが行儀よく並んでいた。