時間だけが過ぎていく。
時間だけが過ぎていく。
どれくらい経っただろう。ネドの頭に、一筋の光が差した。
ケネス宇宙軍の緊急時のマニュアルである。
ケネスの無人宇宙基地は、この宇宙連邦域の中に、全ての宇宙域を網羅するように設置されている。透明スクリーンをかけて、近くの太陽電池使って稼働している。通常は通信に対して主に使われているが、緊急時は、ケネス星人の声に反応して、牽引ビームを使って宇宙基地に遭難船を収容することができる。命じれば、遭難船に透明スクリーンを張ることもできる。そして、無人宇宙基地内には、合成調理器があって、食事や飲み物を提供できるようになっている。また、無人宇宙基地自体に、防御スクリーンも張ることが可能である。
そうだ、これだ。もう、そうするしかない。
テラに向けて救助の通信を送ることはできないし、しない。また、送ったとしても、宇宙連邦軍の宇宙艦テラが、ネメスの宇宙域に侵入することはないし、公になった段階で救助するつもりもないだろう。
ただ、ケネスの無人宇宙基地の存在が、この船の中の人間に明らかになってしまう。ケネス星人以外に。
だが、だが、もう、選択の余地がない。透明スクリーンをかけて、今この小型船と並走しているであろうケネスの宇宙艦の存在が、この船の人間に知られるよりは、まだいいだろう。それに、ネドの気持ちとしては、宇宙連邦軍の任務でケネスの宇宙艦を頼りたくはなかったのである。
全速力で宇宙連邦軍第9ステーションまでの商業ルートを直進しながら、(緊急事態だが、進路の修正をしてテラの停泊位置まで直進することには、ネドはためらいを覚えた)思考を巡らせていたネドは、意を決して、操舵を自動に切り替え、席に着いている二人と、後方で別のパネルを見ているミランに向いて振り返った。
声を上げようとしたその瞬間、ネドの後ろの正面スクリーンがオレンジ色に光って、同時に船が揺れた。
「キャーッ!」
サリトだ。
「捕まってください」
ネドは正面スクリーンに振り返った。
手元のパネルを確認すると、次々ビームが後ろからこの船に向かって来ている。
また、正面スクリーンが光って、船が揺れた。
「キャッ」
光と船の揺れが続く。
船の操舵を切ろうとしていたネドは、何が起きているのか瞬時に理解して、振り向いて後方に向かって声を上げた。
「撃墜はされません、落ち着いてください」
そして、ネドは意を決して、ミランを含む3人に向かって更にこう続けた。
「皆さん、ミラン。ネメス星の中型船が我々の船を追ってきて、撃墜しようとしています。逃げ切れません。それで、僕は、これから、僕たちケネス星人が秘密にしている事を、ここで行おうと思います。皆さんにこれから起こることを他言しないようにお願いしたいのです。他言しないと約束していただきたい。どの星にも他星に知られたくないことがあると思います。よろしいでしょうか?」
ネドはミラン、ヤデン、サリトを順に見つめて行き、了解の返事を確認していった。