この宇宙域を航行しているすべての船および宇宙連邦軍第9宇宙ステーションと、そのすべてのセンサー範囲がギガの正面スクリーン中央下に映し出された。
ネドの小型船が、ギガの右手に来ている。正面スクリーン右にはネドの小型船が映っている。
他船や他宇宙ステーションのセンサー範囲内では、ケネスの小型船と言えども、速度をあまり上げられない。
ハボス船が近づいてきた。
ハボス船に煽られ寄られる形で、ネドの小型船とギガも右方向へ押されて進路を徐々に変えた。
「キャプテン、第9宇宙ステーションのセンサー範囲を間もなく出ます」
後方の士官から声が上がった。
空間に浮かんでいるだけの宇宙ステーションはセンサーを大きくは張っていない。
「わかった」
そう応えると、キャプテン、キースは右手で脇のパネルを触り、
「ネド、キースだ。状況はわかっているね」
とネドに呼びかけた。
返ってきた答えは、想定外だった。
「もちろん、キャプテン、キース、わかっています。平気です。見ててください」
宇宙連邦軍第9宇宙ステーションのセンサー範囲を出るのと同時に、ネドの小型船は右に急旋回し進路をずらし、速度を急速に上げた。言うまでもなく、ネドの小型船はケネス製である。
ネドにしてみれば、左に切ってネメスの商業ルートに乗りたいのはやまやまだが、これから何が起こるかわからない状況で、さすがに他星の商業船に見られる危険はおかせない。
「シリス!小型船の操縦に入れ!」
キースの声がコントロールルームに響いた。
「了解」
「こちらも速度を上げて、微速でいい」
「了解」
「シリス、ハボス船から徐々に遠ざかる程度でいい」
「了解」
正面スクリーン下の地図の中で、ハボスの中型船が徐々に遠ざかって行く。
突然、
「ハボス船、ビーム発射!」
ギガのコントロールルームの士官が上げた声とほぼ同時に、ギガの正面スクリーンの中を金色の太い筋が眩しく光って、左後方から右に進行方向をやや離れて通過した。
「ハボス船、ビーム発射」
また、正面スクリーンを金色の筋が進路を塞ぐように左から右に光って横切っていく。
明らかに右に行かせようとしている。
「ハボス船、ビームを発射」
「ガンマ星ですね」
シリスが後方から声を上げた。
海賊船が横行しているとうわさの、ガンマ星の宇宙域に行かせようとしている。
「ああ」
と、キースが相槌をうった。そこへ、
「キャプテン、キース」
キースの右脇のパネルから、ネドのやや憤慨した声が響いた。
「なんだね。ネド中尉」
「私に、小型船の操縦をさせてもらえませんか。乗っているのは私なんですから」
「ハボス船、ビームを発射」
また金色のビームが正面スクリーンの中を左後方から右に通過していった。
「進路を右に」
「了解」
「ネド、なるほど君の言うとおりだ。だが、私に別の選択肢をくれないか?」