サライは、ネドを見つめながら、続けた。
「君は、こういうことを起こせば、必ずこういう処罰が下されるという、まあ慣例のような考え方を持っている。でも、ケネスでは慣例を重視していない。逆にその弊害を恐れていると言っていいだろう。ケネスでは法律も絶対視していない。法律が実情に合わなくて、被害を受ける星人が出たとする。僕らは、法律の執行停止に直ちに入るし、すぐに検討して改正し、新しい法律の施行の遡りも当たり前のように行う。いや、事実そうしてきた。これはね、法律は、星人の幸福の下にあって、上ではないとわかっているからだよ。全ての星人がね。そしてもう一つ、僕らは人を咎めることを止めたんだ。人間は過ちを犯しがちだ。これは永久に変わらない。僕らは、人の過ちを咎めあって生きることを止めたんだ。対峙して生きることを止めたんだ」
ネドは黙って聞いていた。
「君は今、禁固刑と言ったね。ケネスでは、留置所にケネス星人が入ることは無いよね。ケネスでは、留置所は他星人のために存在する。刑務所はすでにケネスでは存在していないよね」
「ええ」
ネドは頷いた。
「これは、過去に生きてきたケネス星人達の努力のたまものなんだよ。大変な努力の末にやっと成しえた事なんだ。僕らはこのことにずっと誇りを持ってきた。僕らの前の世代までは、犯罪を犯した者全てに、個別に細かい聞き取り調査を行った。犯罪者たちに協力してもらってね。どの時点で、どうなっていたら、こういうことにならずに済んだのかと、質問してね。どうすれば幸福に生きることができたか、そして、人を不幸にすることが防げたかと聞いてね。一つ一つ制度の欠陥を整え、同じような人間を出さないように、出さないで済むように努力してきた。その結果、現在のケネスがあるんだよ。ネド、君は、赤ん坊の時から整った社会の中で育ち、そして、星人としての教育を受けた大人たちだけに囲まれて育ってきた。だから、体験として、ケネス星の社会、制度を重いこととして受け止めることができていないように思う。ケネス宇宙軍の中で、ケネス星人の仲間の中で、これから大人としてケネス星人と関わりを深める中で、体験として、今ある社会を、今ある制度を重いこととして感じながら、生きて行ってほしいと、僕は思っている」
サライ最高司令官は、こう熱く語り終えると、ほっと相好を崩し、ネドを優しさを含んだ深い目でみつめた。
「ネド、ちょっと考えてみてくれないか。・・あー、そうだ。ところで、お昼はまだかな?いい店を知っているんが、食べに行かないか?」
考え込んでしまったネドに、サライ最高司令官はこう言って、ネドを食事に誘いだしたのだった。