「ま、そうですが、地球で物理系、工学系の二つ大学を超優秀な成績で飛び級で出て、大学院で研究生活を送っていたそうです。それを止めて、宇宙連邦軍に入隊したと聞いています」
「へーえ、それじゃあ、なんで入ったのか、噂になるね」
「僕の所に配属にならなければいいけど、なったら嫌だなあ」
「おいおい、ミラン中尉」
「失礼、内緒にしてください」
少し経って、その噂の新人が配属前の新人研修で、コントロールルームに上がってきた。
見ると、なるほど優秀そうな顔つきである。ネドは直接教える立場にはならなかった為、その時は、さしてそれ以上の関心は持たなかった。
宇宙連邦軍では、年の初めに、翌年の各艦の大まかな任務の行動計画が発表になる。
その後、順次、細かい行動計画が発表されるようになっている。
今回、宇宙連邦軍宇宙艦テラは、地球の植民星である惑星、デルタで行われる動植物生態調査、および資源調査の協力を命じられていた。
惑星デルタは昔、宇宙連邦軍の前身である地球宇宙軍が最初の一歩を記したために、地球所有となっていた。
この星は地球に近く、そして、その後の宇宙船技術のめざましい進歩により、植民が計画され、定期的に宇宙船が地球と往復できるようになると、急速に植民地化が進み、人口も爆発的に増えていた。
4年前、地球政府の分局から発展して、ついに植民地政府が置かれるようになっていた。
この惑星デルタは衛星や上空からの調査から、正確な地図は出来上がっているのだが、地球型の惑星のため、陸地が海を隔てて分かれている為、地上での動植物の生態調査や資源調査が進んでいなかった。地球宇宙軍時代に調査した地域を除けば、まだまだ謎の多い地域を残していた。
そして入植については、調査が済んだ地域から入植が解禁となるという制度をとっているため、入植の拠点となり、その後首都となった陸地を除くと、ほかの陸地は調査が進んでいないため、入植希望が多いにもかかわらず、なかなか他の陸地に入植が進んでいなかった。
そこで、今回は、デルタ植民地政府の要請で、地球政府が仲立ちし、宇宙連邦軍が全面協力して、大規模な陸地の生態調査、および資源調査が行われることとなった。
今度の宇宙連邦軍が協力する調査地域を含む陸地については、4年前、地球からの調査団が調査した地域を中心に港ができていて、村が形成され、現在20キロ四方が宅地や農地として開発されているという話だった。
20km四方とは、いかに調査が追い付いていないかを物語っているな、とネドは思った。
今回の調査では、デルタの大学、地球の大学の合同調査チームが、学者だけで総勢20名、そして、担当する、わがテラから、60名の士官たちが各部署からでて、大規模で広範囲な調査が行われることになっていた。