「なるほど、ヌコか。ヌコを買いに来たというのだな」
「はい。お支払いも金の小粒をもってまいりました」
しばらくその男は額に手を当てて考えていたが、
「そこで待っておれ」
と命じた。
そして衛兵を呼ぶと、金細工をテーブルに乗せておくようにと命じて、立ち去った。が、なかなか帰って来ない。
辛い姿勢で待っていると、入り口付近の衛兵の一人が、持っていた棒をトントンと床に打ち鳴らした。すると、一斉に他の衛兵も棒で床を叩き、打ち鳴らした。
上陸班は、みな四つん這いで待っていたが、顔を上げてよいのかわからない。頭を下げて待っていると、やがて、
「その方らか、旅の商人と言うのは」
「よい、顔を上げてよいぞ」
えらぶった声が聞こえた。
顔を上げてみると、明らかに王様然とした、豪華な身なりの恰幅の良い男が、ゆうゆうとした態度で、玉座に座っていた。
直接返事をしてよいのかわからない。副長も、通訳のネドも戸惑っていると、
「口を聞いてよいぞ」
脇から、先ほどの大臣らしい男が声をかけた。
「王様、私共はこちらからは遠い国、クワンの王の命で、陛下に贈り物を持ってまいりました」
意を決して、副長が話し出した。ネドが慎重に通訳をする。
「贈り物とな。金(きん)を持ってまいったと聞いたが」
「金細工でございます」
副長の言葉をネドは大臣らしい男に向いて通訳した。なるべく王様を直に見ないようにしながら。
「それか?」
王様は、玉座を下り、衛兵によって台の上に置かれた金細工を手に取って、見事さに感心しているようである。
「みごとなものじゃの。うーん」
「王様」
大臣らしい男が王様に声をかけた。
「おう、そうだ」
王様は玉座に戻ると、
「その方らはヌコを買いに来たと聞いたが」
「はい、さようでございます。お売りいただければ幸いに存じます」
「ふむ。うーん、それで、ヌコじゃが」