バラン副長は、落ち着いた口調でつづけた。
「王様、ヌコを私共にお売りいただき、そして、このパラスからお返し願えませんでしょうか。私共は、このヌコの一部をお売りいただければ良いのです。私共は、この先、またヌコを買いつけにこのパラスを訪問いたします。そのときは、また、このように、お望みの量をこちらにお持ちすることができると存じます」
王様は黙っていた。
ネドの思考はもはや止まっていた。
やがて沈黙の後、王様は大臣らしい男をそばに呼び、小声で話し始めた。
上陸班の周りは静寂に包まれ、時は止まった。
やがて、
「よかろう」
王様の声が謁見の間に響いた。
「そち達の望み通り、ヌコを売ってやることにしよう」
「ありがとうございます。この上ない喜びにございます」
バラン副長の安堵の声を、ネドが通訳した。
そして、まもなく、ルワに乗って上陸班は城を出た。
ネドは外に出て始めて、自分が息をしていることが感じられたのだった。同時に、上陸班の他のメンバーの安堵の気持ちがネドに伝わってきた。
取ってきた量に比べて、買えたのは1/5程であったが、それでも、終わったのである。
小藪に入ってナイフをそれぞれが身に着ける。ネドは転送させたテラの銃をみんなにチラと見えるように懐へしまった。
外はもう陽が落ちようとしていた。
バラン副長は、また例の宿に泊まるしかないと、ネドを先に宿に向かわせた。
宿の主人は驚いていたが、先払いの金の小粒に相好を崩し、また、四人はこの宿に泊まることとなった。
バラン副長は、未明に部下に支度をさせ、夜明けとともに、パラスの門を抜けた。
ルワを駆けさせて、隣国キッタリアとの境の小山の上に着いたのは、まだ、朝と言える時間であった。
小山の頂上から、元来たパラスの盆地を見渡すと、ネドがヌコを取って来た方角から、黒いものがどうもパラスに向かって飛んできているように見える。ネドは目を凝らして黒い塊を見つめた。
あの、羽を広げると二メートルにもなるラグーとはいえ、この距離を飛んでくるのだろうか。いやまて、パラスの人通りが少ないのが気になっていたが、そういうことなのか。
ネド以外の上陸班は、黒い点が見えなかったのか、気にならなかったのか、すぐにルワのくつわをひっぱり、パラスに背を向けた。
やがて、ネドもゆっくりとパラスに背を向けたのだった。
キッタリアのタパの郊外の小型船へ向かう。
途中、ルワを売るために例の市場へ寄り、そして徒歩で森へ入った。
森の中の小型船の中で、ネドたちは夜になるまで待たなければならなかった。
夜しか上空を飛べない。テラに帰還ができないのであった。
ここの民に小型船を見られるわけにはいかないと、当初よりの計画であった。しかし、この星のこの森は、昼間でも人は通らない。