ケネス星では、早くからこの場所のワームホールは把握していたし、ワームホールの反対端に位置するギーア星に対しても、警戒していた。
ワームホールの惑星X側はもとより、ギーア星側にも透明スクリーンで隠した小さな宇宙基地を置いていた。
ギーア星は宇宙時間で数年前に、ワームホールの存在を知り、無人の宇宙船を盛んに飛ばして調査をしていた。
最近、ギーア星の無人調査船がこちらの端に抜けてきたことは把握していたが、こうも早く有人で船を飛ばしてくるとは、考えていなかったのである。
これはケネス宇宙軍にとっての油断、いや誤算であった。
このギガの船医ドクターマシアスはすでにネドの元に転送降下していた。実体化する前に透明スクリーンを張っていた。ドクター、マシアスはネドに近づきセンサーを走らせた。骨折はない。
ギーア星人たちが去るとすぐに、マシアスはネドの頭、首筋、背中に注射器をプシュと押し付けた。
ネドが唸った。
マシアスは左前腕をすぐに触って、ネドが気が付く前に、ギガのコントロールルームに戻った。
マシアスがそうしたのには理由がある。
ネドは最近、ケネス宇宙軍がテラの任務へ干渉するのを嫌がっていた。
あまりネドの宇宙連邦軍の任務に干渉しないようにと、先日ネドと話し合いがされたのである。
ネドの意識が戻った。
ひどい痛みがすぐに襲ってきた。頭と、背中が痛い。
頭がぼーっとしている。
ネドはゆっくり身を起こして、周りを見回した。
一気に記憶が蘇った。
ふらつきながら立ち上がり、部下を探したが、誰もいない。
「誰かいないか?誰かいないか?」
声をあげてみたが、反応がない。
ネドは駆けだした。
テラの小型船に向かって、駆けた。
ネドの頭に、ギーア星についての知識が駆け巡った。
ギーア星については、ある程度は知っていた。他星人を奴隷として自星に連れ帰っていることは聞いていた。
部下と学者たちが、連れ去られた。
愕然として、ネドは全力で走った。
小型船に着くと、すぐに離陸させ、大気圏を抜けると、ワームホールへ全速力で向かった。