「私は自分本位の行動を取り、ケネス宇宙軍の計画に多大な狂いを生じさせました。私は軍の規律を乱しました」
「え?」
「私が犯したことは重大な規律違反です。禁固刑に当たると思われます」
「え?ちょっとネド」
「私を犯したことの重大さに比例して罰していただきたいのです」
「ちょっと待ってくれ」
サライは目を天井に向けて少し固まったのち、ゆっくりと立ち上がった。
「君が言おうとしていることはわかった。だが、大きな誤解があるから、良い機会だ。話し合おう。さあ、掛けてくれ、ここはケネスだ」
二人で向かい合ってソファに腰かけると、サライはゆっくりと話し始めた。
「君は宇宙連邦軍の軍人だから、宇宙連邦軍式に考えている。それはわかるが、ここはケネス星だ。そして、君が話しているのは、ケネス宇宙軍で起こったことだ。それでだ、ネド。よく聞いてくれ。僕らケネス星人が、ケネス星人として一番大事に考えていることは何だったかな。ケネスの憲法の序文にも、教育プログラムの冒頭にも明記されていることだ」
「えっ・・我々ケネス星人は、自らを含めた全てのケネス星人の幸福のために生きる。全てのケネス星人は幸福に生きる権利を有している」
「そう、その通り。この観念が全てのケネス星人に行きわたっている。根幹となっている。それがケネス星人だ。さて、今回の君の件だが。君を厳しく罰することで、誰が幸せになるのか。君が幸せになるのかね」
む・・・ネドは黙ってしまった。でも、やがて、
「自分の幸せは考えていません。今回のような事例を許せば、軍隊の規律は乱れ、軍隊が維持できなくなります」
「なるほどね。でも、僕らは僕らケネス星人で軍隊を作っているんだよ。君も勉強したように、ケネスでは、命令と服従の関係は作っていない。軍隊でもだ。指示と賛同で成り立っている。だから、全ての軍人は常に自分の頭で考えて、指示に賛同して動いている。そして、軍隊の中でさえ、上官と違う意見であれば、意見を言う権利が与えられている。これはね、他の星と同じように僕らもあまたの犠牲者を出してきた悲惨な戦争の歴史を持っているからだ。その上にやっと作られた事なんだよ。権力を握った為政者に命じられ、他の人間がロボットとして命令に服従して動くしかない世界を、決して今後は作らせないためにね。人間が人間として生きていく権利を奪わせない、人間として生きる権利を誰にも奪わせないためにね。そして、今の、ケネスの軍隊があるんだ。さてと、今回の君の件だが、君がテラの上陸班のリーダーとして、部下たちを自分の手で救いたかった気持ちは、僕は理解できるし、軍人たちも理解していると思う。事実、ネットの中の意見も、同じだったよ。だが、僕としては思いとどまってほしかったがね。僕らのように、自分の頭で考え、指示と賛同で成り立つ組織において、一人が違った行動を取ることの危険性は、どの軍人も自分の頭で重々承知している。今回のことで、わがケネス宇宙軍に、今後とも影響はでないね。何の影響が出るのかな?わがケネスでは、事件の後は必ず検討会が開かれ、詳細に検討会の内容が明記されて、公開情報として流されている。今回の検討会の件も詳細に公開情報として流されたし、その中で、君に厳重注意がされ、教育プログラムが新たに組まれることとなったことも公開されている。つまり、今後とも 、わがケネス宇宙軍に影響は出ないね」