さて、ケネス星のタイムマシン研究所は、がぜん、活気づいていた。
実験は計画が前倒しで行われ、また、研究所職員のうち数名がデルタ星の洞窟を訪れて、ドルー伍長が使ったタイムマシンが残した痕跡から、使われたタイムマシンの分析が行われていった。
この事件から1ヶ月が経ったある日、サライ最高司令官はこの研究所から報告を受け取った。
その内容は抜粋すると、以下となる。
おそらく、この人物、ドルーはこのデルタ星の未来から過去へ移動してきたと思われる。それは、当人が普段から把握している星で、時間、場所を計算した方が、一番簡単に試算できるという点である。どの惑星も自転も公転もしている事実からすれば、計算に労力がかからない方法を取ると考えられる。洞窟の位置は、長期的に不変であり、デルタ星が植民で混とんとしている時期をドルーが選んで来ている点からも、そう類推できるとしていた。
彼がいた未来は、ケネス星からタイムマシンに関する情報が漏れることが無い以上、この事件に未来のケネス星が関わったとされる時期より、さらに先の未来であると思われる。
洞窟に残されていた痕跡から見ると、我々が行っている航法と同じ航法を使っている。但し、我々のものより先へ行ってはいるが。
我々は、早急に精度を上げる必要がある。未来の我々が介入したことが明らかになった今、そして介入した時がわかっている以上、ドルーが使ったタイムマシンより、その時点で精度を上げておく必要がある。
なるほど、なるほど、こう書いてきたか。
今までケネス星では、時をいじることの怖さから、この分野の研究はある意味抑えてきた事実がある。
その抑えの蓋が、今回の件で取り払われたことになる。
さて、サライの元にもう一通の報告書が来ていた。
それは、今回の件についての調査委員会の報告書であった。
ネドがドルーのタイムマシンにかかる前、洞窟で姿を消す直前から、消す瞬間までの録画の分析と、Qコードが発せられた細かい時刻、そして、実際にQコードが作動したのかの検証報告であった。
我々のQコードは作動していた。それは事実と確認された。ネド自体にQコードの照準が合わせられた。これも確認された。しかし、そのあと、転送は行われなかった。これも確認された。我々がQコードを発したのはネドが消える直前だが、現在の我々ケネスの科学技術では、Qコードを発してからQコードが作動し、照準が合わせられ、転送装置が稼働するまで、1/20秒かかる。
洞窟の画像解析で、そのタイムマシンが実際に稼働した正確な時刻が割り出されたが、我々の対応では絶対に間に合ってはいない。
何らかの他からの干渉がない限り、ドルーのタイムマシンにネドは確実に巻き込まれていたと考えられる。何者かが、我々の対応より早くタイムマシンで(もしくは、我々のセンサーでは追うことができない技術で)、ネドをドルーのタイムマシンで転送される直前に、移送(転送)したと考えられる。
未来の我々が関与しているとの話があるが、可能性としてはそれが一番高いと考えられる。なぜなら、我々はあらかじめQコードの前段階でネドの座標を追っていたが、それをおそらくは何者かがそれを使って移送(転送)したと考えるのが妥当と思われるからだ。
そう、報告書は結んでいた。