「ばかは相手にしねえ」
「買うと言っているんだ。いくらか言ってくれ」
背の低いでっぷりした男が、ネドを睨んで言った。
「では、言おう。3000ベシラだ」
「3000ベシラ・・わかった。用意しよう。取ってくるから、ちょっと待っていてくれ。どこに届ければいい?」
けげんな顔をしながら、背の低い男は言った。
「なら、着いてきな、店に届けてもらおうか」
男たち二人は、タリを間に挟みながら、元来た道を引き返した。ネドはその後ろをついて行った。
小さな店がびっしり軒を連ねている中の一軒で、日差し除けのテントのようなものを店の前に張り出した、小屋のような店の前に着いた。
「ここだ、ここに金を持ってこい。すぐに来いよ。遅ければ、セリで売っちまうからな」
背の低い男は憮然とした顔で、ネドに言った。
「わかった。タリ、ちょっと待っててくれ。すぐに戻る」
ネドはすばやく、人通りの少ない裏道へ入り、さらに、人が来なさそうな草地まで行った。
草の中にしゃがんで、左前腕を触ると、ケネスの銀行を呼び出した。
オペレーターに、自分の貯金をベシラに替えるといくらになるかと聞いた。
オペレーターは怪訝な顔で、聞き返していたが、3200ベシラとのことだった。
宇宙連邦軍の給料は高くはないが、テラの生活では、ほとんどお金を使う機会がない。
ほとんど貯金全部だが、タリを売るわけにはいかない。
3000ベシラを、いや、預金全てをベシラに替えてここへ転送してくれないかと頼んだ。
あいつらのことだから、3000で売るとは限らない。
すぐにベシラ(この地域全体で広く使われているお金、金(きん)の小粒より広く使われている)の入った布袋が、大きいもの三つと小さいもの一つが転送されてきた。
ネドは布袋を懐に入れると、すぐに男の店に引き返した。
背の低い男は、店の中で憮然としてイスに座ってネドを待っていた。
脇に先ほどの背の高い男が立っている。
目でタリを探すが見えない。
「ほう、早かったな」
店の主人らしい背の低い男はネドに気が付いて言った。
「心配するな、女は奥だ」
「金(かね)を持ってきたんだろう。ここに出せ」
「タリを連れてきてくれ、それからだ」
ネドは言った。
店の主人らしい男は、立っている背の高い男に、首を振って合図をした。
すぐに奥から、タリが引っ張られて出てきた。
良かった。