幸いケネス星人だけしかいない店内の奥の方で、遅い時間に食事を取っていた、ケネス宇宙軍の軍人たちが一斉に席を立ってネドを囲んだ。
カウンターにいた店の主人は、非常ボタンを触って、ケネス星人たちの周りに透明スクリーンを張って、外からは見えないようにした。
ケネス宇宙軍の軍人の中の一人が、すばやくネドに近づき、腰のベルトに付いているバックから棒状の器械を取り出すと、光らせ、ネドに当てた。
そして、すぐに腰のバックから注射器を出して、ネドの座っているイスを回して、カウンターに背をそらせ、周りの軍人にネドを抑えさせて、ネドの胃に注射器を押し当てた。
そして、更に、別の注射器をネドの腕に押し当てた。
この男はケネス宇宙軍宇宙艦ギガの軍医マシアスである。
見ていた店の主人が
「中へ」
と言って、目線をカウンターの奥の扉に向けた。
ネドは軍人たちに抱えられて、店の奥の扉を抜け、白い壁の内部通路を通って、中庭のある広い部屋へ連れて行かれた。
ここは、かつて体が弱くて倒れる人間が多かった、ケネス星人のために造られた休憩室である。
正面のベッドへネドを寝かすと、軍人たちはマシアスに目線を向けてから去っていった。
「諸君、ありがとう」
とマシアスは仲間の軍人たちの後姿に向けて礼を言いながら、ベッドの脇の壁を触って、ケネスの医療機械を出した。
機械の足を触ってイスを出すと座って、医療パネルを操作し、透明な楕円形の機器を3つ取り出すと、ネドの腹部(胃と腎臓の上)に置いて光らせた。
まもなく、部屋の奥が光って、別の男が実体化した。
「早いね」
マシアスは顔も上げずに呟いた。
マシアスがネドの腹部に置いた機器は、本来、人間の腎臓と膀胱に働きかけて、皮膚から、余分な水分量の調整と老廃物の排出を行うものである。
マシアスはこれを使って、胃からも異物排出するように調整して、ネドの体内から異物の排出を行ったのである。
マシアスが顔を上げると、その男はベッドの反対側の壁を叩いて予備の医療機械を出して、医療パネルを操作した。
そして、じっとそれをみつめると、
「そうか、ヤクか。ハボスのヤクか」
と声を上げた。その男は、今月のネドの当番医ドクター、スプームであった。
「そうだ、ヤクだよ。全部終わったよ」