「わかっていないのか。・・そいつに聞け!」
と言ってその兵士は行ってしまった。
女は怒ったような目をネドに向けている。
ネドは、にこやかな顔をなんとか作って、女に話しかけた。
「僕はネド。遠い異国の商人だ」
「・・・」
「名前を教えてくれないか」
「聞いてどうすんの、私は見ての通りの奴隷よ。ヌコ取りのために、生贄にされる奴隷よ」
何のことだ。
「生贄?僕は見ての通りの異国の商人だ。わからないので聞かせてくれないか?」
「あなたラグーを知らないの?知らないでヌコ取りに行くつもりなの?」
女は怒っている。
とりあえず急いだほうがいい。仲間が捉えられている。
女をルワに乗せ、自分も別のルワに乗って城の門を出た。急ごう。
門から道を少し離れて、ネドは女を待たせてテラのナイフを取りに行った。が、これで足りるとは思えない。生贄を連れて行く必要性からすると。
戻ると、女は逃げてはいなかった。
パラスの町の門を抜けると、ルワを南に走らせた。しばらく走ると、陽が傾いてきた。どこかに野宿できそうな場所は無いかと思いながら、平らな乾いた土の上をルワを走らせていると、大きな岩が見えてきた。そばに細い木が生えている。
「あそこに行くぞ。今日はあそこで横になろう」
女は怒ったようなツンとした顔を向けた。
大岩の所に着くと、ルワを小さな木に繋ぎ、女のルワの手綱も、受け取って木に繋ぐと、
そばに立っている女にネドは決心したように話しかけた。
「さて、話をしよう。・・いろいろ聞きたいことがある」
「・・・」
「さっき、君は自分のことを生贄だと言ったが、僕は君を生贄にするつもりはない。絶対に、あり得ない」
女は口を開こうとした。ネドは手を上げてそれを制した。
「どんな状況でもだ。君は生きて僕と帰る。絶対にね。さて、名前を聞かせてくれるかい?さっき言ったが、僕はネドだ」
「名前はタリ」
女は暗い顔のまま言った。
「タリ。タリ、いい名前だ。さあ、食事と寝る準備だ」
タリの顔に緊張が走った。
「寝ると言ったのはそんな意味ではない。安心してくれ、タリ」
この気候なら夜は寒くなるだろうと、小型船から毛布は数枚持ってきていた。