「ムーク号、ムーク号応答せよ」
「ムーク号、ムーク号応答せよ」
この船の名だ。
「こちら、ムーク号」
ネドが応答すると、
「すぐに停止し、宇宙ステーションに帰還せよ。繰り返す、すぐに停止し、宇宙ステーションに帰還せよ」
ん? 一瞬にして、ネドの顔が緊張にひきつった。
「皆さん、席に着いてください。ベルトを締めてください」
ミランはヤデンとサリトを席に座らせて、ベルトを締めさせた。
ネドはすぐに、パネルを操作して、自動操舵を手動に切り替え、速度を最大限に上げた。
宇宙域の境界線までは、まだまだ距離がある。今はまだ全行程の7分の1程度飛んだところである。
「ムーク号!すぐに停止しろ!」
通信機から、怒鳴り声が響いた。
「貴様ら、何者だ!」
「早く停止しろ」
怒鳴り続けている。
この小型船は、中古船ではなく現行のものだから、かなりな速度が出る。
だが、宇宙域境界線までこれで逃げきれるか。いや、ありえない。
ネドは怒鳴り声をまき散らしている通信機を切った。
速度を上げ続けてから、30分程経ったであろうか。
「ネド中尉、ネメス船が追いかけてきている様です」
センサーを見ていたミランが声を上げた。
ネドもすぐにセンサーを見てみると、センサーの端に中型船一隻がこちらに向かってきているのがわかった。
中古品ばかりのネメス軍の中型船と言えど、そしてこの船が現行の新しい小型船であっても、中型船相手では、追いつかれるのは時間の問題である。
いや、撃墜されるのは、時間の問題だ。
まだ距離はあるが、センサーを見ていると、徐々に距離が縮まってきている。
これではテラまではとても行き付けない。
捕まらずに、いや撃墜されずに宇宙域の境界線を出ることはできない。
どうする。
ネドは先ほどから頭痛で頭がガンガンしてきていた。
どうする。どうする。
ガンガンする頭を振りながら、ネドは考えた。