ミランは考え深げに周りを見ている。
「どうした?ミラン」
「ケネス星はどこもきれいに造ってありますね。高速鉄道から見えた家並みも、ホテルの僕の部屋から見えるケネス星の町並みも、ここの通りも、一本入った裏通りも、どこも本当に綺麗で、汚いところがありませんね」
「この間ミランに連れて行ってもらったゼルダ星のレストランやその周りの通りも、きれいだったよ」
「いや、あそこは、特別だからですよ」
そう言えば、ミランに行かないほうがいいと言われた裏の通りは、見るからに暗くて汚く、危険な雰囲気だったなあと、ネドは思い出していた。
身分制度がはっきりしているゼルダ星は、貧富の差が激しく、犯罪も多く、治安が悪いとの話が聞こえていた。
「そうだねえ。裏通りは違っていたね」
ネドはミランの辛さを思った。
「どこの星にもいろいろあるからね。ところで、・・」
とネドは言って、テラの他の乗組員の話へ話題を移した。そして、立ち寄った他の宇宙ステーションの話や、最近の宇宙連邦内のうわさ話と、取りとめもなく話していて時間がどんどん経って行った。
周りの客が帰り支度を始めた。そろそろ僕らも帰ろうかと思い始めていた時、入り口付近から、ドタドタと複数の人間の足音と話し声が聞こえてきた。振り返ってみると、ケネスの隣の宇宙域の惑星、ハボスの軍人たちである。ハボス星人は好戦的で、乱暴で、犯罪率が高い。ハボス星は宇宙連邦の中で最も治安が悪い星であり、宇宙連邦諸星から嫌われていた。
まずい。彼らはネドの後ろのテーブルの席に、ガヤガヤと騒々しく話をしながら座った。まずいな。ミランも隣で心配げな顔になっている。
酒を頼みにカウンターに寄って来たハボス星人の一人の目が、ネドの左腕に止まった。
あっと思ったが、もう、遅い。ネドは飲んで熱くなって上着を脱いでいた。下は半袖である。ケネス星人はある外見的な特徴を持っている。地球人型宇宙人だが、生まれつき肘の近く、左上腕に二本の銀色の稲妻形のあざがある。まずい。見られたか。このあざではまさにケネス星人そのものである。
そのハボス星人は、チラとネドの方を見てから、後ろの席で仲間と騒ぎながら飲み始めた。今のうちにと、ネドとミランが席を立とうとしていると、さきほどのハボス星人が席を立って仲間とネドの方へ寄ってきた。
まずい、来た!