ミュール側の反応は良い様だ。サンプルを真剣に見ている。
いよいよ、ケネス側が、我々に対してはこのミュールが産出している鉱石を、是非輸出いただけないかと本題に入った。
この時、ネドは、一瞬、ケネス星側の出席者全員が、動きを止めた気がした。
そして、この出席者たち以外の所から、そう、後ろの壁の向こうあたりから、冷たい思考が急に心に入って来るように感じられた。
この部屋に入った時から、少し離れたところに別の存在がいるような気はしていたのだが。
副長官ルコとキャプテン、キースは、何事もなかったように柔和な顔を作りながら、話を続けている。
交渉開始から、かなり時間が経った。
副長官ルコは、これらの商品サンプルを置いていきますので、お使いいただいて、今後の貿易に対してお考えいただけないか、今回はここまでとして、次回訪問の際に、実際の貿易の品目、数量などをお示しいただいて、決定したいと話をした。金額については、リストに目安がありますが、交渉の余地はありますから、是非良いお返事をお待ちしています。
とルコがにこやかに挨拶して締めくくり、会議は終了となった。鉱石については、話題を避けた。
全員が席を立った。
ほっとしてネドは周りに意識を向けてみたが、今度は壁の向こうの別の存在の意識は感じられなかった。
副官ザドに先導されて、部屋を出て一行は玄関へ出た。
副官ザドは、玄関脇にいた人物に呼び止められ、何事か話し始めた。
キャプテン、キースは今回の降下メンバーの部下の一人に近づき、さっと耳打ちをした。そして、今度はネドのそばに寄ってきた。
「私のそばから離れないでくれ。それから、何があっても抵抗するな」
と耳打ちした。
どういうことだ?
ミュール星の副官ザドは戻ってくると、
「わがミュールの宇宙軍副司令官がお見送りを致します」
と告げた。
副官ザドと別れの挨拶をして、来た時と同じように車の様な乗り物2台に、ケネス降下メンバーは分かれて乗り込んだ。
乗った途端、ネドにも異様な雰囲気が伝わってきた。
まずい!
同乗したミュール星人からも、運転手からも異常な緊張感と恐怖の混じった敵意が伝わってくる。