いやいや、この作戦の失敗の後では、宇宙連邦軍に在籍したことさえ、公表されないかもしれない。
ケネス宇宙軍の本部の転送室の自動扉から、シュッ、ネドが暗い顔で出ると、扉の脇にノードが立っていた。
「お帰りなさいませ」
「ああ、ノード。今回は、僕は家には戻らないし、おじいさんの所にも行かないから」
「わかりました」
「星立図書館へ籠らなければならないから」
「わかりました」
「ノード、今回の任務は大変なんだ」
「でしたら、後で、簡単なお食事を図書館へお届けしましょうか」
「えー、そうだね。ありがとう、ノード」
ネドは宇宙連邦軍宇宙艦テラの夜にあたる時間の大半を、この星立図書館の立体シュミレーションルームで費やした。ネメス語に磨きをかけるのはもとより、ネメス星の宇宙ステーションへ着艦するまでの通常のやりとりや、宇宙ステーションの中での入星出星手続きのやりとり、検査場の場所、商人用の荷物シャトルの乗り場の位置、また、地上の基地の内部の詳細な見取り図、そして、宇宙ステーションとの出星の通常のやりとりなどを、このケネスの立体シュミュレーションで覚え込んだ。そして、細かい計画のリストが届けられてからは、現地で泊まる予定の宿までの道順もしっかりと覚え込んだ。不慣れでは済まされない。戸惑えば、人目を惹いてしまう。
そして、この下準備の仕上げに、ネドは立体シュミュレーションの超能力部門にアクセスした。この部門の使用は、本当に久しぶりである。
今回の危険な任務に、どうしても必要と考えたからである。
小さい頃、僕(ネド)は、ケネス星人で有るにも関わらず、おじいさんのような超能力を持っていないとひどく悩んだことがあった。
精神科医のドクター、ネプスに聞いてみたことがあったが、僕は小さい頃から、もまれて育っていないから、潜在的には持っているが、発揮できないでいるのだろうと言っていた。
その後、この立体シュミュレーションの中に、超能力部門があるのを知ってから、練習してみようと思って、使ってみたが、その時はやりすぎて、ひどい頭痛が起きて、起き上がれなくなったのを覚えている。
しかし、今回は、躊躇してはいられない。
ネドは、ほぼ寝ずに、今回の任務の下準備をした。
いよいよ、当日になった。
僕とミランは、体に人工皮膚を張り付け、かつらをかぶり、眼にはカラーコンタクトレンズを入れ、そして、用意されたネメスの商人の衣服を身に着けた。